言葉の窓から

今日は,どんな景色が見えるだろう。

セミへの嫉妬。私も全身で鳴きたい。

 「ミーンミンミンミンミンミー…」

 

一昨日,とても嬉しいことがあった。

これまで20数年生きてきて,一度も経験しなかったこと。

この年最初のセミの鳴き声に,気づいたこと。

 

目覚ましが鳴るよりも前に,近くを通る車のエンジン音と一緒に突然,私の耳に飛び込んできた。

セミだ。

ミンミンゼミだ。

 

夏だ。

 

夏の訪れに気づくことだでき,幸せな気持ちでうとうとしていると,数年前に弟がふと口に出した言葉を思い出した。

「セミって,こんなに一生懸命鳴かなかったら,もう少しながく生きられるんじゃないのかな」

 

セミは,羽だけでなくお腹の筋肉も使ってあの鳴き声を出しているらしい。

昔,家族で行った博物館の展示に教えてもらった。

身体全体を震わせ,あんなに大きな声を響かせている。

 

 

先週,どうしても耐えられなくなり耳鼻科に行った。

セミの鳴き声に,ではない。

どうも,耳の調子がずっと悪い。

 

中学生の時から,疲れていたり喉が渇いていたりすると,プールで水が入った時のように,自分の声や呼吸が耳の中で響くことがあった。

自分が声を発している時に他の音が入ってこなくなり,会話を続けるのが難しい。

自分の声のボリュームも分からないから,いつも出している時に感じている,喉の響きだけを頼りに話す。

どうしても話さなければいけない時は,片耳をさりげなく塞いでやり過ごしてきた。

 

それが,これまで一晩か二晩寝たら治っていた一時的なものが,一週間以上続いた。

一日の中で,なったりならなかったりしたものが,朝から晩まで続いた。

呼吸音だけでなく,しまいには自分の鼓動まで聞こえてきて,耳に痛みを感じるようになった。

 

問診票を書き診察室に通されると,第一声で「自分でどんな病気か分かってるんじゃない?」と言われた。

実は,インターネットで色々と調べて行ったから,その質問は的を射ていた。

 

「開放症・・・ですか?」

「うん,そうだと思うよ」

 

なんとあっさり。

今の症状を聞いてもらった後,耳の中を見せてもらった。

最近耳掃除していなかったからまずい,とか思っていたけれど,そんなことは心配なかった。

 

耳管開放症。

簡単にいうと,私たちの身体には鼻と耳をつないでいる管があり,それが働くことによって気圧の調整などをおこなっている。

それが開いたままになってしまっているのが耳管開放症というらしい。

主な症状は,耳が詰まった感じがする,自分の声が響いて聞こえる,などである。

私がこれまで悩んできた症状そのままだった。

 

鼻をつまんで息を止めたり吐いたりしながら耳の中を見ると,耳管にある膜のようなものが動く様子を見ることができた。

これを肉眼で見ることができるのは,かなり重症らしい。

またしてもあっさり言われた。

 

まずは様子見ということで漢方を処方してもらい,家に帰って調べてみた。

ある記事で,管楽器との関係について書かれていた。

高校生で部活をきっかけに始めたクラリネット

息を強く出す管楽器との関係も強いらしい。

 

お盆休みに実家に帰った時に,今住んでいる所にクラリネットを持ってきて久しぶりに吹きたいと考えていた私にとって,信じたくない内容だった。

確かに長い時間練習していた時は,耳の調子が悪かった気がする。

そういうことだったのか。

そうなのか。

 

それでも,クラリネットが吹きたい。

家の近くの河原でサックスを吹いている人がいて,羨ましくて仕方がないのだ。

時間さえ気をつければいつでもピアノを弾くことができた実家と違い,一人暮らしのアパートで,自分の感情をぶつけられるところは少ない。

これまで音楽という手段を使って表現してきた自分の感情を,どうしたらいいか分からない。

 

セミが,あれだけ一生懸命鳴いているのを聞くと,私も自分の身体から音を出したくなる。

セミが身を削って鳴いているのなら(本当はそうでもないらしいけれど),私も身を削ってでも鳴きたい。

 

早く,休みにならないかな。

 

それでは,また。